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百人町ハウス

 「百人町ハウス」は、1984年に私の祖父母によって建てられた東京都新宿区の百人町にある二世帯住宅である。祖父母が亡くなって、私の父が相続したことをきっかけとして改修することが決まり、私が企画、空間デザイン、管理運用を一貫して担当できる機会を得た。

 私の通っていた大学が近いこともあり、改修以前から多くの友人や知り合いが出入りしており、この「百人町ハウス」を介して新たな出会いや交流が生まれ、「家」族を超えた、儚くも新鮮な「軽やかな繋がり」とも呼べる人間関係が生じていた。その「軽やかな繋がり」を継承し、さらに拡げていくための、企画、空間デザイン、管理運用を考案した。

 まず2世帯住宅の諸室を、個室、パブリックスペース、マルチスペースの3つに分類した。個室を貸し出し、建物全体をシェアハウスのように使う。パブリックスペースは、主に水回りなどの機能的な空間である。そしてマルチスペースは、居住者同士のコミュニケーションの場であるとともに、写真スタジオなどの用途で時間貸しをしたり、ホームパーティやイベントが開催できるような空間とする。

 改修の対象は建物全体であるが、特にマルチスペースに集中してデザインを行った。既存の空間性を保存、引用、増幅、誤読、連想していくことで、全く新しく作り変えるのではなく、また反対に単純に保存するだけでもない、「関係」そのもので空間を作ることを試みた。

 なぜこのような「関係」で空間を覆い尽くす必要があったのか。「関係」とは「軽やかな繋がり」と読み替えてもよい。つまり「軽やかな繋がり」でできたその空間は、その空間で過ごす人々の「軽やかな繋がり」を拡げていくことに寄与するのではないかという期待からである。

 現在私も一つの個室に居住し実際にトークイベントなどを実施している。「関係」の空間を訪れる様々な人々同士の関係が始まって深まり拡がっていく様子を実感を持って観測している。

 「建築」の伝え方も再考する必要があった。設計者による解説と建築写真、図面だけでは「百人町ハウス」を伝えるには不十分である。「百人町ハウス」によって繋げられた人々の中にある像の総体として提示したいと考えた。

 複数人の写真家に写真撮影を、施工者、居住者、訪問者には文章を依頼した。さらには(前例の少ないことだと思うが)2人のイラストレーターにはドローイングを描いて頂いた。この文章は、設計者である私の視線を通した「百人町ハウス」の一側面に過ぎない。写真、文章、ドローイングから紡がれる総体としての「百人町ハウス」を感じてもらえると幸いである。

種別:リノベーション

竣工:2021年10月

場所:新宿区百人町

設計・監理:木村寧生+和田祐樹

施工:TANK

テキスタイル:Onder de Linde

写真:1 Ahmad Jubran, 2-27 Yurika Kono, 27-51 Kenji Seo

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